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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)260号 判決

東京都新宿区西新宿2丁目1番1号

原告

三和シヤッター工業株式会社

同代表者代表取締役

高山俊隆

同訴訟代理人弁理士

稲葉昭治

福井市四ツ井1丁目14番5号

被告

東工シャッター株式会社

同代表者代表取締役

佐々木義一

同訴訟代理人弁理士

戸川公二

主文

特許庁が平成6年審判第1841号事件について平成6年9月16日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文同旨

2  被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「確動性に富んだ電動開閉式折畳戸」とする実用新案登録第1957405号(昭和59年5月9日出願、平成2年12月14日出願公告、平成5年3月24日設定登録、以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成6年1月25日、特許庁に対し、被告を被請求人として本件考案について無効審判を請求し、同年審判第1841号事件として審理された結果、同年9月16日、「本件審判請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は、同年10月26日、原告に対し送達された。

2  本件考案の要旨(実用新案登録請求の範囲)

戸片D1、D2、D3…Dnの各々の隣向する側縁を互いに屈伸折畳自在に連結して成る折畳戸の先頭に位置せる戸片D1の引手框Gの上端部に、鴨居枠Aに内蔵のハンガーレールRに沿って直列する前後一対の吊車S1、S2を装着することによって当該戸片D1を確動的に進退移動可能にする一方、前記鴨居枠A内にはハンガーレールRに平行する如くコンベア1を内装して同コンベァ1を前記引手権Gに連繋せしめ、当該コンベァ1を電動モータ3の正逆回転により前進又は後退動作を行うことを特徴とした確動性に富んだ電動開閉式折畳戸(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由の要点(本件訴訟に関係しない部分を除く。)

(1)  本件考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  これに対し、請求人(原告)は、

ア 本件考案は、出願前に公知の、審判手続における甲第1ないし第4号証(本訴における甲第3号証の1ないし4)に記載された考案に基づいてきわめて容易に想到しえたものであるから、実用新案法3条2項の規定に該当し、同法37条1項の規定により無効とされるべきものである

イ 仮に、アが認められない場合には、予備的に、審判手続における甲第5ないし第8号証によれば、本件考案の明細書及び図面に実施例として記載された折畳戸の開閉機構及び電動モータの制御機構が、新規な技術手段によって構成されているものとはいえないから、これらの折畳戸の開閉機構及び電動モータの制御機構に考案性を認めることはできないと主張する。

(3)  そこで検討するに、請求人(原告)が提出した、審判手続における甲第1ないし第4号証(本訴における甲第3号証の1ないし4)には次のとおりの考案ないし発明が記載されている。

ア 審判手続における甲第1号証(本訴における甲第3号証の1、昭和56年実用新案出願公開第22384号公報、以下「引用例1」という。)

複数枚の扉片を、扉片間に設けた屈伸連接部により折畳み自在に連設するとともに、先頭に位置する扉片の引手框の上端部に、上枠内に設けたハンガーレールに沿って直列する前後一対の吊り車を装着してなる折畳式引戸装置(別紙図面(2)参照)

イ 審判手続における甲第2号証(本訴における甲第3号証の2、昭和53年実用新案出願公開第18841号公報、以下「引用例2」という。)

複数枚の折畳板1と、折畳板1の側縁に連結される支持枠2、3と、これら支持枠2、3間を屈曲自在に連結するジョイント18とを備えた折畳式間仕切

ウ 審判手続における甲第3号証(本訴における甲第3号証の3、昭和53年実用新案出願公告第2925号公報、以下「引用例3」という。別紙図面(3)参照)及び甲第4号証(本訴における甲第3号証の4、昭和56年特許出願公告第594号公報、以下「引用例4」という。別紙図面(4)参照)

複数枚の折畳扉の各々の隣向する側縁を、互いに屈伸折畳み自在に連結するとともに、折畳扉の上位に配したレール内の一方には、モーター減速機を内装し、このモーター減速機の一端に、主動プーリーを回動自在に付設し、他方には従動プーリーを内装し、主動プーリーと従動プーリー間にはワイヤーロープを係張して、前記折畳扉を、ワイヤーロープを介して牽引駆動する電動折畳扉の駆動装置において、最終端の折畳扉の扉面上位中心部に、プーリー軸を一体的に連着してなる戸車付ハンガーを固着して懸垂し、該プーリー軸には、前記ワイヤーロープを一巡宛係巻してなる電動折畳扉の駆動装置

(4)  本件考案と引用例1記載の考案とを対比すると、引用例1記載の考案は、折畳戸に関するものであり、同考案における「扉片」、「上枠」は、本件考案における「戸片」、「鴨居枠」に相当するものであるから、両考案は、「戸片の各々の隣向する側縁を互いに屈伸折畳自在に連結して成る折畳戸の先頭に位置せる戸片の引手框の上端部に、鴨居枠に内蔵のハンガーレールに沿って直列する前後一対の吊車を装着して成る折畳戸」である点において一致するが、引用例1記載の考案には、本件考案の、「前記鴨居枠A内にはハンガーレールRに平行する如くコンベア1を内装して同コンベア1を前記引手框Gに連繋せしめ、当該コンベア1を電動モータ3の正逆回転により前進又は後退動作を行う」という構成(以下「進退引率ドライブ手段の構成」という。)が開示されていない。

(5)  次に、本件考案と引用例2ないし4記載の考案、発明とを対比すると、引用例2記載の考案は、「戸片の各々の隣向する側縁を互いに屈伸折畳自在に連結してなる折畳戸」である点において、本件考案と一致するが、そこには進退引率ドライブ手段の構成についての開示がない。

また、引用例3及び4記載の考案、発明は、「戸片の各々の隣向する側縁を、互いに屈伸折畳み自在に連結してなる電動開閉式折畳戸」である点において本件考案と一致するが、それらは、「最終端の折畳扉(本件考案の「先頭に位置せる戸片」に相当する。)の扉面上位中心部に、プーリー軸を一体的に連着してなる戸車付ハンガーを固着して懸垂し、該プーリー軸に、前記ワイヤーロープ(本件考案の「コンベア」に相当する。)を一巡宛係巻してなるもの」であって、本件考案のように、コンベアを、先頭に位置する戸片の引手框に連繋せしめる構成を有するものではない。したがって、引用例3及び4記載の考案、発明にも、本件考案の、進退引率ドライブ手段の構成について開示されていない。

(6)  そして、本件考案は、引用例1ないし4記載の考案、発明のいずれにも開示されていない、本件考案の構成要件である前記「進退引率ドライブ手段の構成」を具備することにより、「この引手框戸片の動きに従動して進退移動される各構成戸片も必然的に忠実に追随し、結局、折畳戸全体としての開閉動作が頗る円滑な確動性に富んだものとなり、従来の電動開閉式折畳戸のように開閉に支障を生ずる憂いも皆無になるのである。」という明細書記載の格別な作用効果を奏するものであると認められる。

(7)  したがって、本件考案は、引用例1ないし4記載の考案、発明に基づいて、きわめて容易に想到しえた考案であると認めることはできない。

(8)  なお、請求人(原告)は、前記甲第1ないし第4号証のほかに、審判手続において甲第5ないし第8号証を提出しているが、これら甲第5ないし第8号証にも、本件考案の構成要件である「進退引率ドライブ手段の構成」は開示されていないから、本件考案は、甲第1ないし第4号証のほかに、甲第5ないし第8号証を併せ考慮してみても、その登録を無効とすることはできない。

(9)  請求人(原告)の予備的主張について

請求人(原告)が指摘する本件明細書及び図面に記載された実施例における折畳戸の開閉機構及び電動モータの制御機構は、本件考案の構成に欠くことのできない事項ではなく、本件考案に必須の構成要件ではないから、請求人(原告)の予備的主張の当否について検討する必要は認められない。

(10)  以上のとおりであるから、請求人(原告)の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件考案を無効とすることはできない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)ないし(4)は争わない。同(5)のうち、本件考案と引用例2ないし4記載の考案、発明との一致点については争わないが、その余は争う。同(6)、(7)は争う。同(8)、(9)は争わない。同(10)は争う。

審決は、本件考案が、引用例1ないし4記載の考案及び発明からきわめて容易に考案することができたものであるにもかかわらず、その判断を誤り、きわめて容易に考案することができないとしたものであるから、違法であり、取り消されるべきである。

(1)  本件考案の要旨は、次の構成要件からなるものである。

ア 戸片D1、D2、D3…Dnの各々の隣向する側縁を互いに屈伸折畳自在に連結して成る折畳戸の先頭に位置せる戸片D1の引手框Gの上端部に、鴨居枠Aに内蔵のハンガーレールRに沿って直列する前後一対の吊車S1、S2を装着することによって、当該戸片D1を確動的に進退移動可能にする構成(以下「構成ア」という。)

イ 鴨居枠A内には、ハンガーレールRに平行する如くコンベア1を内装して、同コンベア1を前記引手框Gに連繋せしめ、当該コンベア1を、電動モータ3の正逆回転により前進又は後退動作を行うようにした構成(「進退引率ドライブ手段の構成」)

(2)  本件考案の構成アは、引用例1及び2記載の考案に開示された折畳戸の構成と実質的に同一である。

(3)ア  また、本件考案の「進退引率ドライブ手段の構成」は、引用例3及び4記載の考案、発明に開示された折畳戸のコンベアによる連繋構成と実質的な差異はない。

すなわち、

(ア) 本件考案における引手框戸片とは、折畳戸の先頭に位置する戸片にほかならないが、そのような戸片にあっては、もともと戸片自体に吊車を配置する必要がなく(配置すると戸片自体が開閉しなくなる。)、専ら引手框の上端に吊車が配置されるのが技術常識である。他方、引手框のない折畳戸の先頭に位置する戸片にあっては、戸片自体の上端中央部に吊車が配置されるのが技術常識である。

したがって、本件考案と、引用例3及び4記載の考案、発明とは、吊車の配置構成に違いがあるものの、このような違いは、引手框付き折畳戸か、引手框のない折畳戸かの種類の違いから必然的に派生するものであって、ともに折畳戸の先頭に位置する戸片の吊車にコンベアを連繋させた点において、何ら異なるところはない。

(イ) 更に、その具体的な連繋構成についてみるならば、本件明細書においては、本件考案の実施例として、「一番先頭の戸片D1は戸当面に引手框Gを有し」(本件出願公告公報3欄38行及び39行。以下、同公報を「本件公報」という。)、「引手框Gの上部はジョイント部材2によってコンベア1のベルト下側に接続され、このジョイント部材2を介して、上記ハンガーレールRを直動する吊車S1、S2と連結されている。」(本件公報4欄16行ないし20行)旨が記載されており、引手框Gの上端のジョイント部材2(別紙図面(1)記載の第2図において、先頭の吊車を装着するハンガーと、該ハンガーに一体的に設けられたコンベア連結部材)に、コンベア1が連結されるものとされている。したがって、本件考案の「コンベアを引手框に連繋させる構成」を技術的に解するときは、先頭の戸片(引手框戸片)に、吊車が配置された公知の折畳戸であって、その引手框の上端に配置されている吊車に、コンベアを連繋させたものと解するのが至当である。

他方、引用例3における別紙図面く(3)記載の第3図及び第5図によると、引用例3記載の考案に関し、先頭の戸片(引手框のない戸片)の上端中央部に吊車10を装着するハンガー9と、該ハンガー9に一体的に設けられたコンベア連結部材11によって、コンベア8が連結された構成が記載されている。

そうしてみると、両者は、ともに先頭に位置する吊車にコンベアを連繋させた点において、具体的構成が一致することは明らかである。

(ウ) 以上の(ア)、(イ)からみるならば、本件考案と、引用例3及び4記載の考案、発明との間における上記構成が実質においても異なるとした審決は、折畳戸の種類の違いから必然的に派生する固有の構成を看過した結果、引手框にコンベアを連繋させた構成についての技術的判断を誤ったものであり、同一の技術次元に立って対比判断を行わなかった点において失当である。

イ  更に、審決は、本件考案における折畳戸の開閉動作の確動性は、「進退引率ドライブ手段の構成」から導き出されるものとして、「進退引率ドライブ手段の構成」の作用効果を認定しているが、上記確動性は、構成アから導き出される作用効果であるから、上記認定判断は失当である。

すなわち、本件公報中における考案の詳細な説明欄には、「従来の技術、および解決すべき技術的課題」として、一般に、折畳戸が、ヒンジ部材J(連結框)の上部に1個の吊車を取り付け、引手框Gの上端部にも1個の吊車が取り付けられていたことを前提に、「引手框戸片D1上端の吊車がハンガーレールRによって軌道規制作用によりガイドされているとは云え、引手框Gの上端で吊車の向きが左右に振れることによって当該戸片D1の進路がフラフラとして、これに押引従動されて移動する残りの戸片D2、D3…も進路が安定せず、開閉の円滑が妨げられる傾向があり」(2欄17行ないし23行)の記載があり、また、「課題解決のために採用した手段」として、「折畳戸の先頭に位置せる戸片D1の引手框Gの上端部に、鴨居枠Aに内蔵のハンガーレールRに沿って直列する前後一対(2個)の吊車S1、S2を装着することによって当該戸片D1を確動的に進退移動可能にする」(3欄15行ないし19行)の記載がある。

これらの記載から判断するならば、本件考案における折畳戸の確動性は、引手框の上端部の吊車Sが従来1個であったものを、2個とすることによって付与されるものであることが明示されている。更に、この点は、本件考案の構成アにおいても明確に記載されている。

一方、本件考案の「進退引率ドライブ手段の構成」のように、コンベアを、吊車S1、S2付き引手框に連繋させたとしても、引手框自体が持つ確動性に係る機能以上の確動性が得られるものではない。

したがって、確動性に係る作用効果は、手動式であると電動式であるとを問わず、構成アによって導き出されるものであり、これを、「進退引率ドライブ手段の構成」から導き出されるものとして認定した審決は、確動性の技術判断を誤ったものである。

ウ  以上のとおりであるから、本件考案と、引用例3及び4記載の考案、発明とは、引手框付き折畳戸か、引手框のない折畳戸かの種類の違いはあっても、折畳戸の先頭に位置する戸片の吊車にコンベアを連繋させた点において、何ら異なるところはない。

(4)  以上によれば、構成アと「進退引率ドライブ手段の構成」とを具備してなる本件考案は、単に、周知の引用例1及び2記載の考案の引手框付き折畳戸を選択して、その先頭に位置する吊車に、引用例3及び4記載の考案、発明におけるコンベアを連繋させたのみであり、きわめて容易に想到しえたものと認められるから、審決の結論は誤りであり、審決は、違法として取り消されるべきである。

第3  請求の原因の認否及び被告の反論

1  請求の原因1ないし3の各事実は認める。

同4は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

2  取消事由についての被告の反論

(1)  本件考案の要旨を、その構成要件毎に列挙するならば、次のとおりである。

ア 「戸片D1、D2、D3…Dnの各々の隣向する側縁を互いに屈伸折畳自在に連結して成る折畳戸」という構成(以下「横動開閉手段の構成」という。)を備えていること

イ その「先頭に位置せる戸片D1の引手框Gの上端部に、鴨居枠Aに内蔵のハンガーレールRに沿って直列する前後一対の吊車S1、S2を装着することによって、当該戸片D1を確動的に進退移動可能にする」構成(以下「先導吊車直動手段の構成」という。)を備えていること

ウ 「鴨居枠A内には、ハンガーレールRに平行する如くコンベア1を内装して、同コンベア1を前記引手框Gに連繋せしめ、当該コンベア1を、電動モータ3の正逆回転により前進又は後退動作を行」わせるという構成(「進退引率ドライブ手段の構成」)を備えていること

エ 「確動性に富んだ電動開閉式折畳戸」に設計したという構成(以下「確動設計手段の構成」という。)になっていること

本件考案は、上記アないしエの手段の構成を、巧みに連関統合することにより、限られた狭い空間しか有しない折畳戸の建込スペース内に組込み可能にした点に、その要旨があるというべきである。

(2)  本件考案の構成についての予測可能性

本件考案は、上記のとおり、アないしエの楼術的手段の構成を、合目的的に一体に結合させることによって、従来の折畳戸における、「引手框Gの上端で吊車の向きが左右に振れることによって当該戸片D1の進路がフラフラとして、これに押引従動されて移動する残りの戸片D2、D3…も進路が安定せず、開閉の円滑が妨げられる傾向があり、特に電動によって強制開閉しようとする電動開閉式折畳戸にあっては戸片上端の吊車がハンガーレールRに噛んだり、脱線したりして開閉不能になってしまうという弊害が避けられなかった。」(本件公報2欄19行ないし3欄1行)という技術的課題を解決したものである。そして、引用例1ないし4記載の考案及び発明のいずれにおいても、上記(1)アないしエを一体的に備えたものが開示されていないだけでなく、特に、ウの「進退引率ドライブ手段の構成」に至っては、それを個別的に記載したものすら存しないのである。

ちなみに、引用例3及び4に開示されている公知技術は、それらが電動で開閉する形式の折畳扉に該当するとはいい得るものの、先頭に位置する扉に、本件考案の如き「先導吊車直動手段の構成」と「進退引率ドライブ手段の構成」とを装備しておらず、前記第2、3「審決の理由の要点」(5)に記載した構成を開示しているにすぎないものであるから、上記に記載のとおりの従来技術の弊害を避けることができないものである。

したがって、引用例1ないし4には、本件考案の構成を予測すべき何らの根拠も示されていないから、本件考案は、その構成について予測可能性がなく、新規な構成を有するものといえる。

(3)  本件考案の作用効果についての予測可能性

本件考案は、「引手框戸片の動きに従動して進退移動される各構成戸片も必然的に忠実に追随し、結局、折畳戸全体としての開閉動作が頗る円滑な確動性に富んだものと」なる(本件公報6欄8行ないし同11行)という従来類例をみない「円滑確動開閉効果」を奏し、更に、「従来において電動開閉式折畳戸が通有していた開閉動作上の弊害や難点が完全なまでに解消でき…、機構的にも組立作業の面でも些程の複雑化を伴わないので、安価に製作することが可能」(同公報6欄14行ないし同18行)といった「実用性と経済性の両立効果」を発揮するものであるところ、引用例1ないし4のいずれにも、本件考案における「円滑確動開閉効果」及び「実用性と経済性の両立効果」を満足させるものはまったく開示されていない。

したがって、引用例1ないし4には、本件考案の効果を予測すべき何らの根拠も記載されていないから、本件考案は、作用効果について予測可能性がなく、作用効果の点においても新規である。

(4)  以上のとおり、本件考案は、引用例1ないし4との関係において、構成及び効果のいずれにも予測可能性が認められないのであるから、進歩性を具備するものというべきである。特に、本件考案にあっては、審決認定のとおり、引用例1ないし4のいずれにも開示のない「進退引率ドライブ手段の構成」を具備し、しかも、これが重要な役割を果たすことによって「円滑確動開閉効果」を発揮させているのであるから、本件考案の進歩性を否定すべき理由はまったく見当たらない。

(5)  これに対し、原告は、本件考案の折畳戸の確動性は構成ア(「横動開閉手段の構成」「先導吊車直動手段の構成」)から導き出される作用効果であるにもかかわらず、審決が、それを「進退引率ドライブ手段の構成」から導き出されるものとしたことは誤りであると主張する。

しかしながら、審決は、本件考案の課題解決の手段として採用した、「実用新案登録請求の範囲」記載の構成と、当該構成を採用したことによる因果律の帰結である上記作用効果とを、本件出願当時の技術水準を示す引用例1ないし4の記載に照らして考察し、これらの引用例のいずれにも「進退引率ドライブ手段の構成」が開示されていないものと認めた上、本件考案においては、この構成の採用が大きく寄与して、本件考案の特徴である「円滑確動開閉効果」を発揮させているものと認定判断したのであるから、かかる審決の認定に誤りはない。

ちなみに、本件明細書においては、その作用効果である「円滑確動開閉効果」を説明するのに先立って、「本考案の電動開閉式折畳戸によれば、折畳戸の引手框上端に直列一対の吊車を配設してハンガーレールに対して前後にペアで一体的に確動的に進退移動するように構成し、このペアの吊車を電動コンベアに連繋させることによって引手框戸片を前進または後退ドライブさせるという確動機構(「電動開閉式折畳戸の確動機構」)を採用しているので」(本件公報6欄1行ないし8行)と記載し、作用効果の生ずる原因が、他の構成要件と相即不離に連関された「進退引率ドライブ手段」にあることを要約的に説明している。審決の認定も、この点を重視したものであり、かかる本件明細書の記載に照らしても、審決に誤りはない。

このように、本件考案は、「横動開閉手段の構成」、「先導吊車直動手段の構成」、「進退引率ドライブ手段の構成」、「確動設計手段の構成」を連関統合して、それらを、極く限られた狭い空間しか有しない折畳戸の建込スペース内に、合理的に組み込むことによって、「先端の引手框戸片がハンガーレールに沿って忠実に進退移動して残る他の戸片を誘導的に押引して従動させ、確動的に滑らかに電動開閉させることができる確動性に富んだ電動開閉式折畳戸を提供する」(本件公報3欄3行ないし7行)という技術的課題を解決するとともに、上記の「電動開閉式折畳戸の確動機構」を実現し、その結果、「円滑確動開閉効果」を発揮させることに成功したものである。しかして、審決が指摘する「進退引率ドライブ手段の構成」が、上記技術的課題の解決及び「円滑確動開閉効果」を発揮させることに大きな役割を果たしていることは明らかである。

したがって、審決の認定に誤りがあると非難する原告の主張は失当である。

(6)  また、原告は、折畳戸における「横動開閉手段の構成」が、引用例1により本件出願前から公知であることを前提に、折畳戸の先頭に位置する戸片の吊車にコンベアを連繋させたものは、引用例3及び4に記載されているとした上、本件考案と、引用例3及び4とにおける吊車の配置構成の違いは、折畳戸の種類の相違から派生するものであるのにすぎないのに、審決はこれを看過したものであると主張する。

しかしながら、引用例3及び4においては、先頭に位置する戸片D1の引手框Gと、前後一対の吊車S1、S2とを、「先導吊車直動手段の構成」に利用するという技術思想の開示はなく、かっ、先頭に位置する前記引手框Gを直動進退させて、牽引機関車のように全戸片D1、D2、…Dnを進退引率させ、それらを確動的に滑らかに開閉可能にするという「進退引率ドライブ手段の構成」に関しても、まったく開示されていないのである。

しかして、本件考案における、「横動開閉手段の構成」、「先導吊車直動手段の構成」、「進退引率ドライブ手段の構成」、「確動設計手段の構成」といった技術的手段を合目的的に連関統合するという構成は、引用例3及び4の考案、発明と比較して、構成及び作用効果において、当業者の予測を超越した顕著な差異があるというべきであり、決して、原告の主張するような、折畳戸の種類の相違から派生する自明の事項というべきものではなく、その埒外にあることは明らかである。

したがって、「引手框にコンベアを連繋させた構成」に関する技術判断についても、審決に誤りはなく、原告の上記主張も失当である。

(7)  以上のとおりであるから、本件考案は、引用例1及び2に開示された引手框付き折畳戸に、単に引用例3及び4に開示された技術を組み合わせたものでないことは明らかであるから、当業者が、本件考案を、引用例1ないし4記載の考案、発明からきわめて容易に想到し得るものではないとした審決は正当である。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

また、引用例1ないし4記載の考案、発明の各内容、本件考案と引用例1記載の考案との間における一致点と相違点、本件考案と引用例2ないし4記載の考案、発明との間における各一致点がいずれも審決記載のとおりであること、審判手続における甲第5ないし第8号証が審決の結論に影響を与えるものでないことについても当事者間に争いがなく、更に、審判手続における原告の予備的主張についての審決の認定判断についても当事者間に争いがない。

第2  本件考案の概要について

成立に争いのない甲第2号証(本件公報)によると、本件考案の概要は以下のとおりである。

1  本件考案は、電動開閉式折畳戸の改良、詳しくは、引手框上端の吊車の配列を巧みに設計することによって、ハンガーレールに対する引手框戸片の確動性を向上させ、この確動化された引手框戸片を、電動コンベアに連繋して、進退ドライブさせることにより戸口を開閉するようにした、確動性に富んだ電動開閉式折畳戸に関するものである(1欄16行ないし22行)。

2(1)  一般に、折畳戸は、複数枚の矩形戸片D1、D2、D3…Dnの各々の隣向する側縁を、ヒンジ部材Jなどの手段で、互いに屈伸折畳自在に連結して構成されており、その一つ置きの奇数番目の戸片(D1、D3、D5など)における側縁のヒンジ部材の上部に、吊車Sを取り付け、これを介して、鴨居枠A内のハンガーレールRに吊り下げるとともに、鴨居枠A及び敷居枠Bに、各戸片D1、D2、D3…Dnの上下端を嵌め込んで、軌道規制により移動可能とした上、収納シェルターCに畳み込まれる折畳戸片を、引手框Gによって順次引き出し、反対側の戸当たり枠Eに当接させて戸締まりを行うような構成が取られている(2欄2行ないし13行)。

(2)  ところが、かかる折畳戸にあっては、各戸片D1、D2、D3…Dnが、収納シェルターC内に蛇腹様に畳み込んで収納される構造になっているため、折畳戸をそこから引き出し又は引き入れる際、引手框戸片D1上端の吊車が、ハンガーレールRの軌道規制作用によりガイドされているとはいえ、引手框Gの上端で、吊車の向きが左右に振れ、当該戸片D1の進路がフラフラとするとともに、これに押引従動されて移動する残りの戸片D2、D3…も進路が安定せず、開閉の円滑が妨げられるという傾向があった。特に、電動によって強制開閉しようとする電動開閉式折畳戸にあっては、戸片上端の吊車がハンガーレールRに噛んだり、脱線したりして、開閉不能になってしまうという弊害が避けられなかった(2欄14行ないし3欄1行)。

3  本件考案は、従前の電動開閉式折畳戸における上記弊害を解消するためになされたものであり、先端の引手框戸片D1が、ハンガーレールRに沿って忠実に進退移動して、残る他の戸片を誘導的に押引して従動させ、確動的に滑らかに電動開閉することができる、確動性に富んだ電動開閉式折畳戸を提供することを目的として、要旨記載の構成を採用したものである(3欄2行ないし25行)。

4  本件考案の実施例を別紙図面(1)に基づいて説明するならば、次のとおりである。

(1)  開口部の開閉体を構成する折畳戸においては、戸片D1、D2、D3…Dnの各隣向する側縁が、互いにヒンジ部材Jにより屈伸折畳自在に連結されている。そして、折畳戸の一番先頭の戸片D1は、戸当面に引手框Gを有し、この引手框Gの上端部には、前後一対の吊車S1、S2を直列的に備えており、また、この吊車は、引手框Gから奇数番目に位置するヒンジ部材Jの上端に配設された吊車Sとともに、鴨居枠A内のハンガーレールRに、進退移動可能に掛け合わされ、折畳戸全体が屈伸折畳可能に吊り下げられている。

また、鴨居枠Aの内部には、ハンガーレールRに沿って、エンドレスベルトを左右のプーリー11、12に巻掛けして構成したコンベァ1が内蔵してあり、収納シェルターCの上部に配置された電動モータ3により、駆動プーリー11を正逆回転させ、コンベア1のベルトの送出しと引戻しを行う(3欄34行ないし4欄12行)。

(2)  第2図は、折畳戸の引手框Gの上部と、コンベァ1のベルトとの連結状態を示す断面図である。そこにおいては、引手框Gの上部が、ジョイント部材2によって、コンベア1のベルト下側に接続されるとともに、このジョイント部材2を介して、ハンガーレールRを直動する吊車S1、S2と連結されている(4欄15行ないし20行)。

(3)  上記のように構成された折畳戸において、第1図の戸締まり状態から、スイッチ32の開放ボタンa△を押すと、電動モータ3が逆回転し、駆動プーリー11を介してコンベア1のベルトを引き戻すので、このコンベア1に連繋された引手框Gに直列的に装着された、前後一対の吊車S1、S2は、鴨居枠Aに内蔵のハンガーレールRに沿い忠実に直動ガイドされて、先端戸片D1をして収納シェルターC側に引き込ませ、それに押されて、各戸片DnないしD2は収納シェルターC内に畳み込まれ、最後に先端戸片D1が収納部に入る。そして、マグネット42の接近により、マグネットスイッチ41が作動して、電動モータ3が停止される(4欄32行ないし5欄1行)。

(4)  次に、折畳戸を閉める場合には、スイッチ32の閉鎖ボタンc▽を押すと、電動モータ3が正転作動して、駆動プーリー11を介し、コンベア1のベルトが送り出されるため、コンベア1に連繋された直列一対の吊車S1、S2は、ハンガーレールR上で正しく戸当り枠Eを指向して前進移動を開始し、そのため、引手框Gは、先端戸片D1と一緒に収納シェルターCから引き出され、それに続いて、順次、戸片D2ないしDnが収納部Cから引き出される。そして、引手框Gが戸当り枠Eに当接する位置に到来すると、マグネット42の接近によって、もう一方のマグネットスイッチ41′が作動し、電動モータ3を停止させる(5欄5行ないし17行)。

5(1)  以上のとおり、本件考案に係る電動開閉式折畳戸においては、折畳戸の引手框上端に直列一対の吊車を配設し、ハンガーレール上を、前後に一体的、確動的に進退移動するように構成した上、一対の吊車を電動コンベアに連繋させることにより、引手框戸片を前進又は後退移動させるという確動機構を採用したため、この引手框戸片の動きに従動し進退移動させられる各構成戸片も、必然的に引手框戸片に忠実に追随し、結局、戸片全体としての開閉動作が頗る円滑な確動性に富んだものとなり、従来の電動開閉式折畳戸のように開閉に支障が生ずることもなくなるという作用効果が生じる(6欄1行ないし13行)。

(2)  また、本件考案によれば、従来の電動開閉式折畳戸が通有していた開閉動作上の弊害や難点が、完全なまでに解消できるにもかかわらず、機構的にも、組立作業の面でも、さほどの複雑化を伴わないため、安価に製作することが可能となり、実用的にも経済的にも大きなメリットが得られるという作用効果も得られる(6欄14行ないし20行)。

第3  審決取消事由について

そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1  前記第1のとおり、本件考案と引用例1記載の考案が、「戸片の各々の隣向する側緑を互いに屈伸折畳自在に連結して成る折畳戸の先頭に位置せる戸片の引手框の上端部に、鴨居枠に内蔵のハンガーレールに沿って直列する前後一対の吊車を装着して成る折畳戸」(構成ア)である点において一致すること及び本件考案の「進退引率ドライブ手段の構成」が引用例1に開示されていないことについては、当事者間に争いがない。

2  そうすると、本件考案の進歩性の有無は、本件考案と引用例1記載の考案との相違点である、「進退引率ドライブ手段の構成」の容易推考性の如何に係るものというべきであるところ、この点について、原告は、本件考案の「進退引率ドライブ手段の構成」が、引用例3及び4記載の考案、発明における、戸片上の吊車にコンベアを連繋させた構成と実質的に異なるものではないとして、同引用例記載の考案、発明からきわめて容易に想到されたものであると主張する。

そこで、検討するに、

(1)ア  まず、本件考案の実用新案登録請求の範囲においては、折畳戸の先頭に位置する戸片と、引手框との関係について、「コンベア1を前記引手框Gに連繋せしめ」と記載されており、また、引手框と吊車との関係については、「折畳戸の先頭に位置せる戸片D1の引手框Gの上端部に、鴨居枠Aに内蔵のハンガーレールRに沿って直列する前後一対の吊車S1、S2を装着する」と記載されている。そのため、本件考案は、引手框にコンベアが連繋されるとともに、引手框の上部に吊車が装着された構成を有するものであることが明らかである。

イ  また、前記第2、2(1)の事実及び成立に争いのない甲第3号証の3(引用例3)、4(引用例4)によると、一般に、折畳戸においては、戸片の上に取り付けられた吊車を、鴨居枠内のハンガーレールに吊り下げ、吊車を、ハンガーレールに沿って移動させることにより、その開閉がなされるものであることが認められるが、その折畳戸の先頭の戸片に引手框を設けた場合においては、吊車を、引手框上及びそれに続く一枚置きの戸片の側縁上に設置しないと、折畳戸の開閉が困難となるものであり(なお、引手框が設けられていない折畳戸の場合には、各戸片の上部中央毎に吊車が設置されることになる。引用例3及び4参照)、更に、折畳戸が電動開閉式のものである場合には、コンベアを戸片の吊車に連繋させて折畳戸を開閉させる必要があることは、いずれも技術常識上明らかである。

したがって、吊車が装着された引手框付き折畳戸の戸片を、電動式により開閉させるためには、コンベァを、引手框の上端に装着された吊車に連繋させる構成とすることが不可欠というべきことになる。

ウ  そうすると、本件考案における、「コンベア1を前記引手框Gに連繋せしめ」る構成とは、技術上、「引手框Gの上端部」に装着された吊車に、コンベアを連繋させることを意味するものであることが明らかである。そして、このことは、本件公報(甲第2号証)に、本件考案の実施例として前記第2、4(2)(4)のとおり記載されていることからも裏付けられるところである。

(2)  次に、引用例3及び4記載の考案、発明の構成について検討するに、前出甲第3号証の3によると、引用例3においては、同引用例記載の考案について、「最終端の扉1は、第3図に示すように扉面上位中心部に、同様にレール4内に嵌合する戸車10を両側に附設し、扉とは回動自在のスラスト軸受をもったプーリー軸11を固着して懸垂した後、該プーリー軸11には主動プーリー6および従動プーリー7間に係張したワイヤーロープ8を一巡宛巻嵌して連係し、全体として電動折りたたみ扉の駆動装置を構成するものである。」(2欄14行ないし22行)と記載されていることが認められ、また、前出甲第3号証の4によると、引用例4においては、同引用例記載の発明の実施例について、「最終端の扉Aは、第3図に示すようにレールD内に嵌合する各戸車8を軸嵌したケーシング7に軸支すると共に該ケーシングの上面に設けたスラストベアリング6を介して回動自在に設けられたキャリア4の下端に扉の上位中心部が固着され懸垂される。該駆動プーリー1には主動プーリーFおよび従動プーリーG間に係張したワイヤーロープHを一巡宛巻嵌して連係する。」(2欄20行ないし27行)と記載されていることが認められる。

これらの事実に、前記第1のとおり当事者間に争いのない引用例3及び4記載の考案、発明の構成内容を考慮するならば、上記考案、発明における「最終端の扉」「戸車」「ワイヤーロープ」は、それぞれ、本件考案における「先頭に位置せる戸片」「吊車」「コンベア」に相当するものと解することが可能であるから、引用例3及び4には、「折畳戸の先頭に位置する戸片に、吊車(戸車)を装着し、それとコンベァ(ワイヤーロープ)とを連繋させた電動開閉式折畳戸」の構成が記載されているものと認めることができる。

(3)ア  以上の(1)、(2)からみるならば、本件考案と、引用例3及び4記載の考案、発明とは、いずれも、折畳戸の先頭戸片の吊車にコンベアを連繋させるものである点において一致するというべきである。

イ  他方、両者は、上記コンベアの連繋位置の点において、本件考案が、コンベアを先頭の戸片の引手框に連繋させた構成であるのに対し、引用例3及び4記載の考案、発明が、コンベアを戸片の上部中央に連繋させた構成であることにおいて相違している。

しかしながら、前記のとおり、折畳戸を電動式により開閉するにあたっては、コンベアを戸片の吊車に連繋させることは技術常識上当然というべきであるから、引手框を有し、その上端に吊車を装着する本件考案の折畳戸と、引手框を有さず、戸片上部の中央に吊車を装着する引用例3及び4記載の考案、発明の折畳戸とでは、各戸片上に装着される吊車の位置の違いに応じて、コンベアの連繋位置が異なることは当然であり、その連繋位置の相違は、折畳戸の種類の違いから必然的に派生する構成の違いにすぎないものというべきである(すなわち、引手框を有する折畳戸にコンベアを連繋させるには、引手框上に設けられた吊車に連繋させる以外になく、引手框を有しない折畳戸にコンベアを連繋させるには、戸片上中央に設けられた吊車に連繋させる以外にはない。)。

したがって、両者におけるコンベアの連繋位置の相違自体に、格別の技術的意義があるものといえないことは明らかである。

ウ  そうすると、引用例1記載の考案が、本件考案と同様に、折畳戸の先頭の戸片に引手框を備え、かつ、その上部に前後一対の吊車を装着した構成を有するものであることは前記1のとおりであるが、その引用例1記載の考案の吊車に対し、前記アのとおり、先頭戸片にコンベアを連繋する点において本件考案のコンベアと一致する引用例3及び4記載の考案、発明のコンベアを適用するならば、「進退引率ドライブ手段の構成」がもたらされることになることは明らかであるとともに、前記のとおりの引用例1、3及び4記載の考案、発明の技術内容からみて、引用例1記載の考案に、引用例3及び4記載の考案、発明のコンベアを組み合わせることが、構成上、不可能又は困難であるとする理由は、格別見当たらない。

(4)ア  ところで、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、前記構成ア及び進退引率ドライブ手段の構成に続き、これらの構成を「特徴とした確動性に富んだ電動開閉式折畳戸」と記載されており(引用例1及び3、4記載の考案、発明がここにいう「折畳戸」であり、かつ引用例3、4記載の考案、発明が「電動開閉式折畳戸」に当たることは、これらの引用例の記載内容に照らし明らかである。)、「確動性に富んだ」との記載は、その内容からみて、本件考案の構成により奏する作用効果的事項を記載したものと認められるが、この点について、審決は、本件考案は「進退引率ドライブ手段の構成」を採用することにより、引手框戸片、ひいては折畳戸全体の開閉動作が確動性に富んだものになるという格別な作用効果を奏するものであると判断している。

イ  しかしながら、本件考案の実用新案登録請求の範囲において、「折畳戸の先頭に位置せる戸片D1の引手框Gの上端部に、鴨居枠Aに内蔵のハンガーレールRに沿って直列する前後一対の吊車S1、S2を装着することによって当該戸片D1を確動的に進退移動可能にする」と記載されていることは、前記第1のとおり当事者間に争いがなく、また、前出甲第2号証によると、本件明細書には、本件考案の目的、作用効果について、前記第2、2(2)、3及び5(1)のとおり記載されていることが認められる。

それらの記載からみるならば、本件考案は、従来の折畳戸において、引手框上端の吊車が一個であったため、その向きが左右に振れてふらふらし、これに戸片を押引きさせると、それに従動する戸片の進路が安定せず、特に、電動開閉式折畳戸では、脱線、開閉不能となる弊害があったことから、その解決を技術的課題として、実用新案登録請求の範囲に記載された「折畳戸の先頭に位置せる戸片D1の引手框Gの上端部に、鴨居枠Aに内蔵のハンガーレールRに沿って直列する前後一対の吊車S1、S2を装着することによって当該戸片D1を確動的に進退移動可能にする」構成を採用し、従来の折畳戸の弊害を除去したものであることが明らかである。

他方、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載及び前記第2における本件考案の概要からみるならば、本件考案における、「コンベア1を前記引手框Gに連繋せしめ」る構成(「進退引率ドライブ手段の構成」)とは、引手框を備えた折畳戸を開閉させること自体のために必要な構成をいうにすぎず、その構成が、本件考案の折畳戸を開閉させること以上に、格別に折畳戸の確動性の向上に寄与するものではないことも明らかである。

そして、本件明細書のその他の記載をみても、前記作用効果が、「進退引率ドライブ手段の構成」を採用したことによるものであることを窺わせるに足りる部分は見当たらない。

ウ  そうしてみると、本件考案の前記確動性の作用効果は、審決記載のように、本件考案が「進退引率ドライブ手段の構成」を具備したことによって奏されるものではないことが明らかであるから、本件考案における「進退引率ドライブ手段の構成」が、顕著な作用効果を奏するものであると認めるべき余地はない。

(5)  以上の各事実からみるならば、本件考案における「進退引率ドライブ手段の構成」は、当業者が、引用例3及び4記載の考案、発明からきわめて容易に考案することができたものと認めるのが相当であり、そうすると、本件考案は、当業者が、引用例1、3及び4記載の各考案、発明からきわめて容易に考案することができたものといわざるをえない。

(6)  これに対し、被告は、本件考案が各引用例から想到することが困難であるとして、本件考案の構成の連関統合性及び構成、作用効果の予測可能性等について種々主張するが、上記の認定、判断に照らすならば、そのいずれも失当であることは明らかである。

3  以上によれば、審決は、引用例3及び4記載の考案、発明が有しないと認定した「コンベアを先頭に位置せる戸片の引手框に連繋せしめ」る構成は、結局、折畳戸の種類の相違から必然的に派生する構成にすぎないものであって、引用例1記載の考案に引用例3及び4記載の考案、発明のコンベアを適用するならばもたらされる構成にすぎないことを看過し、かつ本件考案の奏する確動性の作用効果についての認定判断を誤った結果、本件考案の容易想到性を否定したものであって、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取消しを免れない。

第4  よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面(1)

図面の簡単な説明

第1図は本考案の実施例の正面図、第2図は同案施例の引手框が収納シエルターに位置した戸片開放状態における鴨居枠部分を切断して示した部分拡大断面図、第3図は折畳戸の開閉機構を既略的に示した分解斜視説明図である。

1……コンベア、2……ジヨイント部材、3……電勤モータ、4……検出手段.

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面(2)

図面の簡単な脱明

第1図は本考案装置の一実施態様を表わした分解斜視図であり、第2図は第1図の装置を組み立てた状態における第1図のA-A断面図である.また第3図は第1図の装置を組み立て、更に折戸本体の一部を折り畳んだ状態での第1図のB-B断面図であり、第4図は第3図のC-C断面図である.更にまた、第5図は、第1図の装置を建造物へ建込んだ状態を示す部分斜視図である.

1……折戸本体、110……扉片、120、130……屈伸連接部、140……吊元框、141……ピボツト軸、2……吊り車、3……上枠、310……内壁部、4……スライダー、5……下枠、6……切欠部、7……ネジ、8……戸当り枠、9……吊元砕、10……ネジ、11……上ピボツト座、12……下ピボツト座、S……煽止スプリング、P……収納レール.

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面(3)

図面の簡単な説明

第1図は直線態様から完全開放に至る折りたたみ状態を示す本考案の平面説明図、第2図は閉じた状態を示す同正面図、第3図は最終端扉面中央部の縦断面図、第4図は他の扉面中央部の縦断面図、第5図は本考案装置の要部を示す斜視図である.

符号の説明1……折りたたみ扉、2……蝶番、3……振止ローラー、4……レール、5……モーター減速機、6……主動プーリー、7……従動プーリー、8……ワイヤーロープ、9……ハンガー10……戸車、11……プーリー軸.

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面(4)

図面の間単な脱明

第1図は直線態様から完全開放に至る折りたたみ状態を示す本発明の平面説明図、第2図は閉じた状態を示す同正面図、第3図は最終端扉面中央部の縦断面図、第4図は第3図のM-M線における横断平面図、弟5図は他の扉面中央部の縦断面図、第6図は本発明装置の要部を示す斜視図である。

符号の説明、1……駆動プーリー、2……太陽歯重、3……遊星歯車、4……キヤリア、5……内歯歯輪、6……スラストペアリング、7……ケーシング、8……戸車、9……ブレーキシユー、10……圧縮バネ、11……ネジ、12……蓋、A……扉、B……蝶番、C……ガイドローラー、D……レール、F……モーター減速機、F……主動プーリー、G……従動プーリー、H……ワイヤーロープ、L……ハンガー。

〈省略〉

〈省略〉

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